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ボンズとアーロンと王

盛り上がりを欠くボンズの新記録

バリー・ボンズが、ハンク・アーロンの持つ米大リーグ通算ホームラン記録を塗り替えようとしているが、地元サンフランシスコを除いては、この偉業にもあまり盛り上がりが見られないようだ。明るみになったボンズの過去の薬物使用が、影を落としている。ボンズは、「薬物と知らないで使っていた」と述べているが、その証言も嘘だったとの疑惑が高まっている。

かつてアーロンが、ベーブ・ルースの714本の記録を破る時には、全米が騒ぎに包まれた。当初は、ホームラン打者としてさほど目立たなかったアーロンだが、年々コンスタントにホームランを重ね、当時2位のウィリー・メイズの数字を上回った頃から、アンタッチャブルな大記録に接近する男として注目され始める。

同時にアーロンは、殺到するマスコミの取材と激しい中傷にさらされることになった。「713本目を打った後、グラウンドで心臓発作を起こすことを望む」などの心ない手紙も受け取る。人種差別がまだ根強く残っていた当時のアメリカで、伝説のヒーローの不世出の記録が、黒人選手によって破られることなど我慢ならなかったのだ。

1973年のシーズンを終えて、アーロンの記録は713本。そのシーズンオフ期間中、アーロンの元へ届く攻撃の手紙や脅迫状がいっそう増した。アーロンは自らボディガードを雇い、自宅のあるアトランタに別の住居を確保し、ホテルには偽名で宿泊したという。

しかし、74年シーズン開幕ゲームであっさりルースに並ぶホームランを放ち、4月8日、アトランタでのホーム最初の試合で、ついに715本目を打った。この夜の試合開始前には、タイ記録を祝うセレモニーが盛大に催されたが、さらに記録達成直後には、10分間もスタンドからの祝福が鳴り止まなかった。アーロンの“長い闘い”が終わった瞬間だった。その後アーロンは76年までプレーし、通算755本の記録を残す。

このアーロンの記録を、100本以上も上回る868本のホームラン記録を王貞治は達成した。アーロンと王は、アトラクションでホームラン競争を行ったり、引退後も協力して、少年野球の世界大会を17年間にわたって主宰するなど、親交を続けている。

米紙も称える王監督の人柄

アーロン氏はボンズについて、「名前の綴りも知らない」と述べ、「“その場面”に臨むつもりもない」とボンズの記録達成の日の試合観戦を拒否するなど、あからさまに冷淡な態度を示している。LATimes真面目なアーロン氏にとって、ボンズの日頃の傲慢な言動やステロイド疑惑が許せないのだろう。

これに対して王監督の方は、ボンズに対して擁護的なコメントを寄せている。ロサンゼルス・タイムズ紙が、7月4日の紙面で『Home run king and gentleman』という王監督の特集記事を掲載し、日本の一部メディアでも要約が報道されたが、なかなか微に入った取材内容で興味深い。

王監督はボンズのステロイド使用を咎めながらも、かつてはステロイドは禁止薬物ではなく、同じように使用していた他の誰よりもボンズがホームランを打っていること、43歳の今でも活躍していることを評価している。

また、「同時代の選手と比べて、圧倒的に多くのホームランを量産したベーブ・ルースこそが、史上最も偉大なホームラン王」と語り、さらに記事では、「自分はあくまで、日本で最もホームランを打ったというだけで、日本のメディアがいうような、ホームランの世界記録保持者と思ったことは一度もない」とのコメントを紹介、王監督のその謙虚な態度はボンズの対極だと報じている。他にも王監督が高校時代、日本国籍でないがゆえに国体に出場できなかったこと、入団から3年間、不振をかこったあげく東京のネオン街で浮かれ、退団の危機にあったものの荒川コーチと出会い、一本足打法の完成によってホームランバッターに成長したこと等伝えている。

イチローがWBCで、「世界の王さんに恥をかかせるわけにはいかない」と奮闘したように、「サダハル・オー」のホームラン記録とフラミンゴ打法は、アメリカや中南米の野球関係者・ファンにも知れわたっている。そして、その人柄についても、アメリカの有力メディアで賞賛されたのは嬉しい限りだ。

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