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硫黄島の戦い

『散るぞ悲しき』と『硫黄島からの手紙』

1941年(昭和16年)12月8日(日本時間)、日本軍による真珠湾奇襲攻撃によって幕を開けた日米戦争は、 緒戦において東南アジアや東インド諸島の要衝を次々に制圧するなど、日本軍の快進撃が続いた。しかし翌1942年6月のミッドウェー海戦でのアメリカ軍の大勝利を転機として、形勢は逆転していく。戦線を拡大しすぎた日本軍に対し、米軍は次第に南方戦線で優位に立ち、制海権、制空権を握る。

1944年サイパンを陥落させた米軍は、日本本土攻撃の中継基地としてさらに硫黄島に狙いを定める。当初5日間で決着すると見られていた硫黄島決戦は、予想に反して凄惨な戦いが1ヶ月以上にも及び、米軍にとって「史上最悪の戦闘」となった。結局日本軍は、2万人を超える兵士のうち1000人余りを除いて玉砕し、日本国民はいよいよ米軍の本土上陸の足音を間近に感じることとなる。

この硫黄島の戦闘― とりわけこの戦いにおいて日本軍を指揮した栗林忠道陸軍中将が、最近脚光を浴びている。ノンフィクション『散るぞ悲しき 』がベストセラーになり、クリント・イーストウッド監督の硫黄島戦を題材とした映画2部作『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』が日米両国で話題になった。

悲痛な想いがこもる「散るぞ悲しき」

梯(かけはし)久美子著『散るぞ悲しき』では、物量的な劣勢が明らかで、勝ち目が万に一つもない硫黄島決戦において、なぜ栗林軍が1ヶ月以上も持ちこたえられたかを検証している。それは、それまで日本軍の島嶼戦における常套手段だった敵の上陸を水際で叩く戦法を廃し、地下壕を造ってゲリラ戦を仕掛けるという作戦が効を奏したことによるが、首脳部の反対にもかかわらず作戦を貫いた栗林の断固たる決断や、炎熱と水・食糧・資材不足にあえぎながら兵士たちが島全域に地下壕を掘り進めた様子、硫黄島全景米軍上陸後の苛烈で陰惨な戦闘の情景が克明に記されている。

地下壕作戦という前例を翻した合理的な戦い方を主導する一方で、栗林は硫黄島全島をくまなく徒歩で周りながら、作業と訓練にあけくれる兵卒に気軽に声をかける姿を見せた。粗末な食事を兵士たちと同じくし、公平無私で決して威張らず、自決的な攻撃を戒め、苦しくとも生き延びて出来る限りの持久戦を試みよと命じたのだという。

『散るぞ悲しき』は、東京にいる家族へあてて、従軍中に書き連ねた細やかな気配りと愛情に満ちた数々の手紙や遺族のことばを紹介しながら、栗林中将のヒューマンな一面を浮き彫りにしている。そして勇壮な態度を崩すことなく指揮を執り続けながらも、徒手空拳を強いられた戦いの最後に、「散るぞ悲しき」と詠んで死んでいった栗林の悲痛な想いを伝えている。

クリント・イーストウッドが興味引かれた硫黄島

クリント・イーストウッドの手による『硫黄島からの手紙』も渡辺謙演ずる栗林中将が主人公である。硫黄島の戦いを日米双方の視点で描こうと思い立ち映画_硫黄島からの手紙リサーチを進める過程で、栗林中将が硫黄島防衛のために採ったユニークな戦術に興味を引かれたのだという。さらに日本語の文献を調べていく中、『「玉砕総指揮官」の絵手紙 』に出会い、栗林の妻と息子、娘にあてた手紙に心打たれ、遺族とも会って日本軍側のストーリーの核とすることを決めたそうだ。

『散るぞ悲しき』読了直後にこの長編映画を観た。史実を追いながらのフィクションで構成されているが、硫黄島戦の意義やこの地を巡る戦略的背景が頭に入っていると興味が深まるものだ。米海軍部隊上陸の瞬間の緊張感、要衝擂鉢山と堀りめぐらした地下壕で繰り広げられる戦いの迫力もやはり映像ならでは。戦場の地獄絵図には目をふさぎたくなる。

この映画のもうひとりの主人公ともいえるのが、二宮和也演ずる一兵卒西郷。パン屋を営んでいたが、妊娠中の妻を残して戦場に赴かざるをえなかったやるせなさもあり、国家に対する忠誠は薄く、「どうせ死ぬのだ」と投げやりになっている。そんな西郷が、傲慢なこれまでの上官連中とは違って厳しさの中にも人間味溢れる栗林の振る舞いに接して、絶望的な情勢の中、生への執着を新たにするという展開だ。

硫黄島に死すまたこの映画では、伊原剛志扮する西竹一中尉の描写にもウェートが置かれている。西中尉は、1932年のロサンゼルスオリンピック馬術競技で金メダルを獲得し、「バロン西」と呼ばれ、欧米でも名を知られる存在で人気が高かったという。

それゆえバロン西の硫黄島での最後に際しては、米軍が「ニシさん出てこい。あなただけは助けたい」とその命を救おうと投降勧告を行ったが、西中尉は洞窟にひそんだまま応じなかったという話が一部美談として伝わっている。しかしその真偽のほどは定かではないようだ。
ちなみに硫黄島戦と西中尉の物語は城山三郎の『硫黄島に死す』において描き上げられている。

散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道

散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道 ■著者: 梯久美子 ■出版社: 新潮社 ■サイズ: 単行本 ■ページ数: 244p ■発行年月: 2005年07月 ▼内容(「BOOK」データベースより) 娘よ!妻よ!絶海の孤島からの手紙が胸を打つ―水涸れ弾尽きる凄惨な戦場と化した、本土防衛の最前線・硫黄島。その知略で米軍を最も怖れさせた陸軍中将栗林忠道は、粗末なテントに起居しながら、留守宅の幼い末娘を夢に見、お勝手の隙間風や空襲の心配をする愛情こまやかな父でもあった―。死よりも、苦しい生を生きた烈々たる記録。感涙のノンフィクション。 ▼アマゾンレビューおすすめ度の平均: 4.5/4 2万の将兵を指揮する中将の姿を克明に描こうと試みた傑作/4 日本を守った人々/5 感涙あるなればこそ、、、

NHKスペシャル 硫黄島 玉砕戦〜生還者 61年目の証言〜

NHKスペシャル 硫黄島 玉砕戦~生還者 61年目の証言~ ▼内容(「DVD NAVIGATOR」データベースより) NHKで放映された「硫黄島 玉砕戦 〜生還者 61年目の証言〜」をDVD化。太平洋戦争の最激戦地となった硫黄島。そこで兵士たちはどのように玉砕戦を戦い、命を落としていったのかを日米双方の兵士の証言などを基に、硫黄島の戦闘の真実を明らかにする。 ▼アマゾンレビューおすすめ度の平均: 4.0/4 「玉砕」以降の凄惨な死。栗林中将はそこまで強いたのか。/4 戦死というもの