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英語屋さん

ソニー創業者の専属通訳

1997年に亡くなったソニーのカリスマ創業者、井深大氏の専属通訳を4年半にわたって務めた浦出善文氏が、その経験と思い出を『英語屋さん―ソニー創業者・井深大に仕えた四年半』という本に記している。

浦出氏が通訳を任された当時の井深氏は、すでに77歳。ソニー取締役名誉会長の職にあったが、会社の本業からは退いて、自身が関心を寄せていた幼児教育や東洋医学の啓蒙活動にいそしみ、世界的な著名人として海外VIPとの交流も深かった。

一方、浦出氏は入社2年目の平凡な一社員。英検1級の腕前と「恐らく若くて人が良かった」ことによる大抜擢だったが、帰国子女でもなく、留学経験も持たず、まして通訳など初体験。いきなりの大役に悪戦苦闘しながら勉強と実践を続け、通訳術を身に着けていく様子が綴られている。

「コミュニケーションの達人・井深大の<通訳兼カバン持ち>が今、明かす、英語上達法」は、ことさらに特殊なものでなく、英文レターを書く際の3つの要諦や、パターンを暗記してしまうというテレフォン英会話のコツなど、一般学習者にも役立つ点が多い。具体的な英文も多く例示されている。

また、単なる英語指南にとどまらず、社員への愛情が深かった井深氏の人柄や、周辺の人々にまつわるエピソードが豊富に紹介され、それらも面白く読める。

さらに浦出氏が、通訳前に、面会相手のことを調べ尽くす「予習」を徹底したことや、初めての海外出張を控え、休暇をとって自費で現地を下見したり、スウェーデン国王一行を本社に受け入れた際の失敗の顛末など、ソニーという一流企業で働くビジネスマンの仕事ぶりも垣間見ることができる。

産業翻訳とは

浦出氏は井深氏の通訳としての仕事を終えて、現場に戻った後、しばらくしてソニーを退社。それまでの経験を生かして、フリーランスの産業翻訳者として独立し、今も「英語屋さん」として活動している。

アイディ
翻訳家柴田耕太郎氏が社長を務める会社のサイト。「柴田メソッド」による通信講座も行っている。

ちなみに、産業翻訳とは実務翻訳、ビジネス翻訳とも称され、官公庁や関連団体、企業で発生した文書等の翻訳をいう。例えば外国製品のマニュアルの翻訳なども、産業翻訳のジャンルに入る。

翻訳というと文芸ものをはじめとした海外出版物の翻訳か、映画の字幕・海外ドラマの日本語セリフなど、映像メディアの翻訳をイメージしがちだが、日本の翻訳市場を支えているのは産業翻訳で、圧倒的に需要が多い。そしてひとくちに産業翻訳といっても、「コンピュータ」「医薬」「特許」「金融・経済」等さまざまな分野が存在し、特定のフィールドに特化して仕事をする翻訳者が多いようだ。

浦出氏によれば、通訳者・翻訳者の才覚が、目立った形で現れることはあまりないが、プロ中のプロは、伝達すべき内容やその背景、関連知識について実に深い知識を持っているという。英語以外にも幅広い勉強を怠らず、相当の見識と技術を備えてこそ、真の「英語屋」といえるようだ。

英楽通法